柏市内にある豊四季台団地では高齢化率が40%を超え、孤独死や、経験を活かす場の不足等の様々な課題が生じています。また地域コミュニティは喪失しつつあり、さらに小学生の潜在的な待機児童が増加しています。弊団体では、上記のような複層化した社会課題を、高齢者は「居場所と出番」を得て、子どもは地域への愛着の心を育むような「世代を超えた仲間づくり」が自然発生する居場所・学び舎を創ることでの解決を目指しています。
このページは公益財団法人JKA「平成26年度お年寄りが幸せに暮らせる社会を創る活動」の補助により作成しました。
高齢者の継続就労の仕組みをつくり、地域に住む高齢者が「生きがい就労」として社会の支え手となる新たな社会モデルを創造するためのノウハウを
「高齢者の就労をマネジメント・コーディネートするためのマニュアル」
としてまとめました。他の地域や機関においてご参考・ご活用いただければ幸いです。
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地域の高齢者が「生きがい就労」として子どもの居場所・学び舎づくりに関わる「ネクスファ」。ワークシェアリングによる高齢者の就労の場としてだけでなく、多世代の地域住民が集うコミュニティとしての機能も果たしています。東京大学高齢社会総合研究機構・柏市・UR都市機構と連携、「長寿社会のまちづくり」の実践の場として、40名以上の高齢者が就労しています。
ネクスファの取り組みは、東京大学と連携した最先端の研究(老年学:ジェロントロジー)に基づいた実証事業であるとともに、豊四季台団地という、高齢化社会の先がけである「課題先進地域」における取り組みです。また、従来型のシルバー人材センターとは異なり、「ワークシェアリング型」の就労を実現できているだけでなく、就労の場がイコール高齢者にとっての居場所にもなっています。さらに、「英会話講師」「ロボット教室講師」のように、現役時代に培った知識や経験を直接生かす業務を開発し、学童保育・学習塾としても、高齢者就労が付加価値に繋がっています。
高齢者の継続就労の仕組みをつくり、地域に住む高齢者が「生きがい就労」として社会の支え手となる新たな社会モデルを創造するためのノウハウをまとめます。他の地域や機関においてご参考・ご活用いただければ幸いです。
◆継続就労スキームの作成
高齢者の「生きがい就労」の仕組み作りを、ネクスファでの実践事例を中心に、全国の事例調査も交えつつ進めます。また、就労する高齢者に対し東京大学高齢社会総合研究機構で研究されている「ジェロントロジー=老年学」の内容に基づいた調査(生きがい度や健康状況等の向上など)を実施します。これらを基として、就労スキームを確立します。
◆他地域に伝えるためのスキーム形成
高齢者が学童保育・学習塾のような就労そのものが「生きがい」に繋がるモデルを他地域に普及・展開するためのノウハウ、また多世代が交流するコミュニティ・プラットフォームとしての場づくりを設計する運営者(マネージャー)やコーディネーターの為のマニュアルを整備し、それをWEBサイトで広く告知していきます。
2030年、高齢者率が40%を超える超高齢社会が訪れる。柏市内にある豊四季台団地では高齢化率が既に40%を超え様々な課題が生じている。柏市には近年、都内への通勤者や核家族が多いため世代間交流や地縁がなく、地域コミュニティが喪失しつつある。また、企業等を退職した高齢者がその経験を活かして働くことができる場が少ない。一方で柏市では小学生の潜在的な待機児童が多く、また既存の学童保育に対する課題が存在する。さらに、グローバル社会を生きる子どもたちが習得すべき力や価値観を学ぶ場が、都内に比べ圧倒的に不足している。
これらの多層化した社会課題を地域の力で解決する「場」として2012年3月、ネクスファが誕生した。現在、小学生向けの「学童保育部門」、小中学生向けの「学習塾部門」の2部門がある。
学校でも家でもない、
「第3の居場所・学び舎」を創る
高齢化先進国の日本においては、3人に1人が65歳以上の超高齢社会が到来する。社会のサステナビリティ(持続可能)の確保のためには、高齢者の雇用拡大が必須である。意欲と能力があれば年齢に関係なく活躍し続けられる社会(生涯現役社会、エイジフリー社会)、全員参加型の社会、全員に居場所・活躍の場所がある社会が志向されている。一方で、高齢者の雇用拡大に向けては、若者の雇用を奪わない形でのベストミックスの在り方が求められている。
千葉県柏市(人口約40万人)は、全国平均に比べ高齢化率が低い(2010年現在高齢化率が全国23.0%であるのに対し柏市は19.9%)が、その一方で豊四季台団地は高齢化率が既に40%を超え、今後の日本の都市部における高齢化の“課題先進”地域である。この課題に対し、2009年に柏市、東京大学、UR都市機構の3者で「高齢社会の安心で豊かな暮らし方・まちのあり方」を議論、実践するための「柏市豊四季台地域高齢社会総合研究会」を発足した。現在団地は、UR都市機構による建替えが進んでいる。
<豊四季台地域>
JR柏駅西口から徒歩12~20分程度に位置する大規模賃貸団地(管理開始昭和39年)
その中で、柏市の目指す姿は“医療、介護、予防、住まい、生活支援サービスが一律的に提供され、いつまでも住みなれた地域で暮らすことができる社会”とし、その具体的手法の1つとして、地域の高齢者が地域内で就労するシステムを構築し、できるかぎり自立生活を維持する「生きがい就労の創成」に取り組むこととなった。
高齢者、特に都市部高齢者層にとって最も抵抗の少ない社会参加の形として、1.現役時代から慣れ親しんだ生活スタイル2.帰属意識、社会的役割が明確に与えられる という2点が挙げられる。その一方で、高齢者層のライフスタイルに応じた働き方として1.無理なく、出来る範囲で働く=就労時間、場所、内容の調整 2.地域貢献、趣味を活かす、人との関わりを求める=生計労働から「生きがい労働」という視点が必要である。
生きがい就労の位置づけは以下の通り。
具体的な生きがい就労事業は4分野、8種類と多岐にわたる。
<農>休耕地を利用した都市型農業事業/団地内敷地内を利用した植物栽培ユニット事業 /建替後リニューアル団地における屋上農園事業
<食>コミュニティ食堂
<保育>学童保育事業/保育・子育て支援事業
<支援・福祉>生活支援・生活充実事業/福祉サービス事業
そのうちネクスファで取り組んでいる学童保育事業以外について、以下、具体的に述べる。
①休耕地を利用した都市型農業事業
事業拡大を目指す農業者が集まって出資し、土地の確保や人の確保等の課題を解決する組合組織LLP「柏農えん」を平成23年12月に設立。繁忙期(種まき・収穫等)や閑散期に応じた雇用調整を行いながら、高齢者就労に取り組んでいる。そのほか、「オークビレッジ柏の葉」での農作業の従事等、雇用の枠が広がっている。
②植物栽培ユニット事業/屋上農園事業
豊四季団地敷地内に植物栽培ユニットを設置。また、屋上農園については建替後の建物の屋上スペースを活用。東京大学が雇用主となり、緑と接する職住接近の事業を展開。
③コミュニティ食堂
豊四季台団地建替後にコミュニティ食堂を設置(平成27年度スタート)、民間事業者による運営を実施。要支援・要介護者の増加、高齢者のみ世帯の増加に伴い移動圏域が狭まる、「食」本体の楽しさよりも食の準備の煩わしさから欠食が増える、といった課題の解決を目指した活動。
④保育・子育て
柏市内の幼稚園、保育園合計7か所での生きがい就労。昔遊び、おけいこや料理などの体験教室、絵本の読み聞かせなどの業務を行っている。有資格者の職員が本来の業務(教育、保育、及び事務仕事)に専念できる、というメリットがある。
⑤生活支援・生活充実事業
民間による生活支援サービス(介護ステーション)として、介護保険対象外のサービスに(掃除・洗濯・外出支援・御用聞き等)高齢者が従事している。短時間での依頼にも高齢者の就労で対応することができるというメリットがある。今後検討しているサービスとしては、子育て世代を中心とした現役世代に、負担となる家事サポートサービスがある。
⑥福祉サービス事業
介護老人福祉施設(特養)、介護老人保健施設で働く有資格者の職員の不足、配膳時等に一時的な業務の集中、等が課題となっている。これに対して、高齢者が食事配膳、簡易な営繕管理、併設カフェ運営、菜園管理等を高齢者の就労(短時間勤務)により対応。有資格者の職員が本来業務(利用者のケア等)に専念でき、職員の配置が均一化できる等の効果がある。
<生きがい就労プロジェクトの現状>
2014.3現在:柏市福祉政策課
ネクスファにおいて就労として携わっている高齢者は2014年9月30日現在、24名。職種は「ロボット教室講師」「英会話講師」「学校から教室までの送迎」の3つである。
仕事、もしくはシニア海外協力隊等で英語圏の国での居住経験のある高齢者が就労。小・中学生を対象に、英会話のスキルだけでなく、現地で実際に使う「生きた英語」や、「英語を学ぶ楽しさ」を伝える。会話のみならず、相手の考えを知り、自分の考えを伝えることのできる「対話力」を身につけることを目指している。
レゴマインドストームを活用した小学生対象のロボット教室。「ロボット・科学」をテーマに、文部科学省が提唱する「知識を活用する力」を育む体験・体感プログラム。ロボットの仕組から計測技術に至る知識はもちろん、教育的なロボット競技を通じて、創造性、課題解決力、協調性、プレゼンテーション力などを養い、科学技術や環境・福祉への関心・意欲の向上を図るとともに、未来に向けたモノづくりの面白さを伝える。
小学1~3年生の学童保育部門の児童を対象に、学校から教室までの徒歩での付き添い送迎を実施。1~3名の児童に対して高齢者1名が対応している。
■ネクスファに関わる高齢者は以下の2つのルートで就労をスタートした。
・東京大学高齢社会総合研究機構の「就労セミナー」(17名)
・すでに就労されている方からの紹介(口コミ)(7名)
■就労の動機・きっかけ
・ネクスファのコンセプトに共感した
・とにかく、子どもに関わりたい
・おもしろそう!
・シニア海外協力隊(JICA)で培ったノウハウを活かしたい
・自分が社会人で経験した英語のスキルを活かしたい 等
■高齢者の関わり方
ネクスファに関わる高齢者は単なる就労者ではない。
運営管理者と対等なパートナーとして、建設的な意見やアイデアを
積極的に出していただいている。
高齢者のアイデアから生まれた講座は以下の通り。
1.ロボット教室
英対話講師を担っていた高齢者から積極提案があり実現したプログラム。
技術職、建築士等のスキルを持った高齢者がチームをつくり、小学生向けの
週1回のロボット教室を開講することとなった。
2.外国を学ぼう!
JICAシニアボランティアに従事していた高齢者の方々がチームを結成。
月替わりで、さまざまな国の文化や食べ物を紹介するプログラムを実施した。
高齢者は地域の子どもの居場所・学び舎に就労として関わり、自らの経験や知恵を伝承することで「居場所と出番」を得て自己肯定感を醸成する。高齢者の健康増進や一次予防にも寄与する。また、子どもは経験豊富な高齢者に見守られ、教えられることで地元への愛着を培う。そのような、複層化した社会課題を解決する場としてだけでなく、「世代を超えた仲間づくり」が自然発生するような多世代交流の場作りを目指している。以下、高齢者を雇用するメリットについて述べる。
長期休暇中の学童保育部門は7:30より始まる。朝に強い高齢者が早朝勤務シフトに入ることで、業務時間が過大になりがちな正職員の勤務時間の圧縮等のメリットがある。
高齢者は細かいことに気がつく。掃除の際も手を抜かない。とかく、若いスタッフが「大体こんな程度でいいか」とするところを、しっかり最後まで丁寧にやって頂ける。
既に子どもを自立まで育て上げた高齢者の子どもへの対応は安定感があり、また若いスタッフとは異なる視点で子どもたちの見守りをして頂いている。
ネクスファでは英対話の講師は高齢者だけでなく、大学生や職員など多岐にわたる。高齢者と大学生が横並びの関係で子どもへの教え方を話し合ったり、海外の話題を話したりしている。
こういった関係は一朝一夕でできるものではないが、地域の居場所・コミュニティーとして、高齢者の存在はもはや欠かせないものとなっている。
お金のやり取りがないボランティアだと、どうしてもそこに甘えが生じてしまったり、「気軽に休める」状況が生まれたりしてしまう。運営側も、ボランティアということで強く頼めなかったり、また指導できなかったりする。お金の多寡に関わらず、就労に応じて対価をお支払いする、という関係だと、お互いに責任が生じるし、緊張感にもつながる。実際、ネクスファで働いて頂いている高齢者の皆様は就労に対する意識が非常に高く、こちらとしても頭が下がる思いである。その姿勢が若手のスタッフに及ぼす影響もとても高い。
ネクスファでの高齢者就労は週に1~3日で、1日あたり1時間~3時間程度と、短時間勤務である。第3章「東大・柏市の生きがい就労プロジェクト」でも述べたが、高齢者の就労ニーズは、無理の無い範囲で働く「ワークライフバランス(仕事と生活の調和)」が多い。この就労スタイルのメリットは、仮に1人が休んだとしても、他の人がカバーしやすいことにある。ネクスファでは体調を崩して長期で休んだ方が、すんなり復帰したケースもある。また、そもそもスタッフが辞めることが少ない。送迎については体力面の影響が大きいためこれまで辞職されたケースは数件あるが、一方で見守り、英対話についてはネクスファをスタートして2年半、辞職は0件である。
一方で、高齢者は自身の健康や家族の状況など、様々な課題を抱えている方が多い。そういった方でも負担感なく、また力を発揮しながら続けるためには、ワークシェアリングの就労形態はふさわしいと思われる。
高齢者を就労する際にはデメリットも存在する。高齢者の状況を正しく把握し、運営者としてどのように関わっていくのかをあらかじめ決めておく必要がある。
時に生じるのが、高齢者間での人間関係でのトラブルである(ネクスファにおいては若手スタッフとシニアスタッフの間でのトラブルは起きていない)。それは、保育に対する考え方であったり、送迎の在り方であったり、高齢者1人ひとりが就労する内容への「こだわり」があってこそのことだが、お互いに「譲れない」ということがあり、それがトラブルを生む原因となっている。これに対する私たちの対応としては、「まずお互いの話をしっかり聞くこと」「(可能であれば)間にスタッフが入りつつ、お互いが対話する時間をつくること」を心掛けている。
ネクスファにおける就労では、子ども相手であるがゆえに、ルーティーンワークではなく、「自分で考えて働く」場面が比較的多い。しかし、だからといって「お任せします」では判断に迷うし、動くことができない。最低限のルールを作り、それをしっかり遵守してもらうよう、伝えるとともに、判断に迷う際はすぐにスタッフにヒアリング頂くよう伝えている。
見守り・英対話講師といった就労は、教室内での業務なので高齢者の状況が見え、こちらも指示を出したり、対話をしやすかったりする。一方で、送迎については私たちが見えない部分での就労であるため、高齢者がある程度自己判断して子どもを学校からネクスファまで送り届ける必要がある。雨天時、子どもがケガをしたとき、グズったとき・・・など状況は様々である。
たとえば小学校の下校時間が変わった場合、それを送迎の高齢者に連絡する。が、伝わっていなかったり、抜けてしまったりすることが多い。1、2を伝えて10を理解してもらうのが理想的だとしたら、高齢者の場合は10以上を伝えて10を理解してもらう、という形のコミュニケーションとなることがある。しかしそれはその人の性格等の問題ではなく、高齢者ならではの年齢による記憶力の低下だったりするものであり、高齢者の方を就労する際は、何度も伝える、確認するということが必要である。
また、その際に「以前にもお伝えしましたよ」といった言葉は厳禁。根気良く、何度も伝える、確認する手間を惜しまないことが、トラブルを未然に防ぐコツである。
体調を崩すことによる急な欠勤が、若手のスタッフに比べ多い。また、就労者自身だけでなく、家族の病気や介護などで欠勤するケースもある。
採用、研修、シフト調整、連絡、トラブル対応、労務関係(給与計算・振込・年末調整)、といった管理者側の運営コスト(時間・経費)が増大。これは、ワークシェアリングによる就労に取り組んでいるため、就労する高齢者の人数が多いことに起因している。ワークシェアリングの調整を自主的に行うための就労者の組織化が必要だが、現況できていない。就労者の欠勤時、現況は管理者が集約、シフト調整を行っている。就労する高齢者同士の繋がりを深くする、交流する接点を増やす等の工夫が必要である。
上記、デメリットと課題について述べてきたが、ネクスファとしては高齢者の雇用はメリットになる面の方が大きいと感じている。もちろんコストもかかるし、コミュニケーションも手間がかかる。しかし高齢者の方が関わることで子ども1人ひとりに目が届き、結果的に保護者の満足度にも繋がっている。課題が生じたのは事業の最初の方がほとんどで、軌道に乗れば「チーム」として成長していける状況になる。
ネクスファにおける高齢者の就労のきっかけは3.就労の現状にも書いた通り、
・東京大学高齢社会総合研究機構の「就労セミナー」
・すでに就労されている方からの紹介(口コミ)
の2つである。ここでは、具体的にどのように雇用しているのか、
また研修のスキームについて述べていく。
東京大学柏の葉キャンパスにある高齢社会総合研究機構が主催の高齢者就労セミナーの中で、就労の募集内容を紹介、希望者を募集する。ここでの東京大学はシルバー人材センターと類似の機能を担っている。
1.事業紹介(エントリー)
(参考)就労セミナー事業者アンケート(事業所シート)
(参考)就労セミナー事業者アンケート(仕事毎各シート)
2.採用面接について
応募があった高齢者については、運営管理者が面接を実施、採用を判断する。
(参考)採用面接シート
3.スタッフ研修について
面接後、採用予定の高齢者には研修を実施する。
(参考)講師研修予定表
4.マニュアル
(参考)送迎マニュアル
高齢者の継続的な「生きがい」就労の、全国の事例を調査、まとめたものである。
ここでの「生きがい」就労の定義は以下の通りである。
・高齢者自身が「生きがい」をもって働いている
・単なる就労ではなく、就労場所が高齢者にとっての「居場所」「コミュニティ」である
・従来型のシルバー人材センターを通じた雇用は今回の事例に含めないものとする
・企業等を退職後、同企業等に再雇用されての就労は今回の事例に含めないものとする
場づくりを設計・マネジメントする運営者(マネージャー)や
コーディネーターに求められるスキル
高齢者に限ったことではないが、対等な、ざっくばらんに意見を言い合える人間関係を構築することを意識している。年長者である高齢者に対して敬意を持ち、丁寧に接しつつも、職場のルールや子どもたちへの関わり方などはしっかり伝えるよう心掛けている。
その職場が目指すビジョンや想いは都度、しっかり共有することが大切。特にネクスファのような子どもの現場では、経験豊富な高齢者ご自身の価値観で子どもに接する場面が多くなる。ネクスファでは細かいスタッフルールは定めていないが、保育の現場として同じ方向をみるための土台作り、すなわちビジョンや想いの共有を意識している。
デメリット・課題のところでも述べたが、高齢者とは特に、こまめなコミュニケ―ションが必要である。特に就労の日時変更などは1度伝えたからOK、ではなく、2度、3度と伝える必要がある。そのときに重要なのは、コミュニケーションを取ることを厭わないこと。やり取りを楽しむくらいの気持ちで臨むべきである。また、多世代の現場だと価値観の相違、世代間ギャップ等からフラストレーションや衝突が起こる可能性がある。運営者として、時には間に入りながら、時には当事者同士の対話を促しながら、コミュニケーションを丁寧に取る必要がある。
特にワークシェアリングで週に1、2度の勤務の場合だと、日々現場で起きる出来事や、新たに決められたルールなどの情報の共有漏れが発生しがちである。ネクスファでは「スタッフノート」という、出来事や日報を記載するノートが存在する。高齢者はメールやSNS等を使用しないケースが多いため、アナログではあるが、ノートでの共有を行っている。メールやSNSと異なり、ノートは一覧性があるため、過去に起こった出来事ややり取りを振り返りしやすいという利点がある。
運営者(もしくは管理者)と就労者、という関係に留まらず、就労者自身がアイデアを出し、展開できる場であるかどうか。ネクスファでは、就労する高齢者が自らのアイデアを出すケースがある。 例えば、ロボット教室はもともと英対話の講師だった高齢者の1人(元エンジニア)が企画提案したことで実現した。このように、高齢者が単に就労する場、として捉えるのではなく、自らやりたいことを実現できる場、との認識を持つことができれば、真の「生きがい」就労に繋がるものと考える。
高齢者が何を求めて就労しているのか、ニーズを把握して相対することは必須である。また、その高齢者がどのような経験をしてきたのか、何が得意なのか、等を把握し、状況に応じて適任者をその都度配置することが求められる。その人の潜在能力を発揮させることで、その人を元気にするという効用がある。
就労の最初の段階では就労の種類に応じたマニュアルを配布し、基本的な業務を覚えてもらう。ただし、日々現場では予想していないようなことが起こる。ネクスファは子ども相手の事業であるため、マニュアルに縛られず、様々な出来事に対し柔軟に臨機応変に対応することが求められる。高齢者スタッフには、常に目の前の子どもたちの言動を意識するよう伝えている。
ネクスファでは、“えんがわ”プロジェクトと称した、多世代交流の取り組みを行っている。地域の多世代の多様な人々が集い、一息つけるような、世代を超えた仲間づくりができる居場所づくりにチャレンジしている。
https://readyfor.jp/projects/nextph
ここでは、高齢者が生き生きと「生きがい就労」を継続するために、場の運営管理者としてどのような工夫をすべきかをまとめていく。まずは、ネクスファで就労する高齢者の生の「声」を聞いてみる。
就労している高齢者は定年退職後、65から69歳の世代が最も多い。就労日数は週1~2回が87%と大半を占める。収入は少なくとも、希望に沿った日数・時間で働ける“プチ就労”を希望する方が多い。また、自宅から職場までの距離が1km圏内の方が64%と、家から近いことも就労の後押しになっていると考えられる。
●子どもと接することで、私自身の気持ちも明るくなり生活に張り合いができた。
●“毎日日曜日”のところ、はネクスファで張りのある日ができ、楽しい時間となっています。
●非常に楽しいです。スタッフの温かさが伝わっています。
●子どもに元気をもらい生活が明るくなりました。また、スタッフの方と話したり、一緒に仕事をさせていただき、視野が広がり前向きになり、色々な面で意欲的になりました。
●責任を感じるあまり負担に思うと不安になることもありますが、元気に笑顔で無事出会い送り届ける道中の会話でこちらも元気になります。
●安全に送迎するということを第一に考え、毎回気持ちを引き締めて行動しています。それに伴うマニュアル通りには行かないことが多々ありますが、学校からネクスファまでの時は私にとって喜びあり涙あり、その他諸々の感情がありで、ちょっとしたドラマに遭遇することがあります。ネクスファの階段をのぼる子どもの後姿で、その日の大変だったことを忘れてしまいます。
●非常に楽しいです。高柳では、レッスン前の雑談に笑いが絶えず、その心地よさでレッスンスタート。スタッフ、高齢者の”和”に感謝しています。スタッフの温かさが伝わっています。これからスタートですが、その「心」を学んでいきたいと思っています。
●外出するようになり、規則正しい生活ができること。歩く(いやでも)時間ができた。
●たかが1時間ですが、時間が気になって落ち着かずその日は予定が入れられない
●自分にできることがあると飛びつきましたが、気持ちと体力の誤差に戸惑いを感じながらつづけてきました。自分にとってはメリット以外の何もありません。児童のエネルギーは、素晴らしいです。児童にとっての自分は?を考えています。
●小さな子どものその後の成長を知りたいという想いからでしたが、子どもの成長ぶりに驚き、エネルギーをいただいています。
■キーワード
1.生活に張り合い・規則正しい生活
2.責任感を持つ・気を引き締める
3.子どもからもらうエネルギー
4.スタッフとの交流・刺激
5.非常に楽しい
●生活のメリハリができました。また、若いスタッフの方々と気軽に話ができやりがいを感じています。子どもたちとの会話で元気をもらいます。
●普段の生活がどうしても同年輩の人々になっているので、子どもと関わることで短い時間ではあるが、何か新鮮な気持ちになるし、張り合いになっている。
●何もすることがなく、家の中にいるので外出の機会になっている。特に運動もしていないので、ちょうどよい運動になっている。義務があるので、ちょっとした張り合い。
●自分の好きな英語という媒体をつかって未来を背負い子どもたちに関われることは、この上もない幸せごとと思っている。子どもたちからエネルギーをもらい、老いゆく我が身に”カツ”を入れられている、そんな心情です。
●週2回、約時間の歩行は、自分の体調維持を超え、増進になりました。高齢者のウォーキングも1人ではなく、仲間と話しながらの方が効果的と言われますが、この仕事での児童との会話は、自分でも驚くほどの脳の活性化になったと思っています。
●社会とのつながりを持ちたいと思っていた時に、同世代の人が一緒に関われることに魅力を感じました。
●健康と張り合いで楽しんでいますが、大事なお子様を無事に送ることができるのか、心配もあります
<主なコメント>
●70歳頃まで(自分の体力・能力があれば)
●体力の続く限り/体に故障がないかぎり
状況の許すところまで/できるなら、何歳でも働きたい
●1年頑張ってみて、その先はまた新たに考えたい
●わからない
●心身の健康(心の余裕)/私自身がボケないで歩けること。
●足、腰が異常なければと思っております。
●今のところ課題はありませんが、子どもにケガをさせないようにとは思っています
●子どもたちへの対応に自分のふがいなさを感じています。ベテランの方がうまくかわす方法を身につけておられるので、学んでいるところです。
●子どもと接することに体力・気力が必要ですので、体力を維持するためにプラチナ体操やカーブスに通い、ラジオ体操やウォーキングを積極的に行っています。
●知識を得るために色々な講座に参加しています。
●脳の衰え。70歳以降の衰えのスピードが心配。
●子育ての支援と高齢者の視点で子どもたちの心の面をみつめていきたい。
慎重に実践として学んでいきたいと考えている。
■キーワード
1.心身の健康
2.脳の衰え
3.仕事への姿勢、意欲
4.学ぶ意志
●ネクスファとの出会いで、今の時代の子育ての現実が理解できました。学校を終えてからの大切な時間をネクスファの皆様が細やかな気配りで接しておられるのを見て、大きく広がって欲しいと思います。
●子どもたちがこれからも友人同士で大きくなっていける場であればと思います。
●親と会う機会がもっとあればいいと思う。各家庭で何を大切に育てているのかを知りたい
●今の日本は、何だかヘンに成長してしまった・・・私たち大人が何とか昔の人情、辛抱、想いやりなどなどを身につけさせてあげなければ。そういった意味でも、ネクスファのサステナビリティ、これからの社会、これからの子どもづくりは素晴らしいと思っています。私も勉強になります。
●子どもたちの居場所であり、考える場所であり、楽しく、また、学べる場所であってほしいと思います。
●高齢になると柔軟性がかける。でも若いころには見えなかった、理解できなかったことを経験してきていることも事実です。年齢・年代を超えて理解しあえることかな?
●みんなで協力すると、可能性やよい子どもの成長に希望が持てると思います。
●今後どのように進んでいくのでしょうか。外で遊ぶことの少ない子どもたちが生き生きしている姿をみると、自分の子ども時代を思い出しました。みなさまの強い努力を感じられて、大変な仕事をしてくださっていると、感動いたします。
■就労する高齢者のニーズを把握する
アンケートの通り、高齢者はお金が目的で就労するとは限らない。健康の維持、生活のハリ、社会とのつながり、子どもからのエネルギーなど、関わる動機は人により様々である。日々の高齢者との信頼関係の構築を進めていく中で、それらニーズを把握しておく必要がある。
■就労機会の創出
高齢者にとって、働きやすい形を模索し続ける必要がある。短時間業務を高齢者で分業できる業務の開発が必要となる。また、高齢者は教室運営者の業務をサポートするような事業モデルづくりが必要となる。
■モチベーションの維持
ワークシェアリングの就労形態では、スタッフ同士が顔を合わせない機会が多い(特に送迎スタッフ)。ネクスファでは年に1度、シニアスタッフが集う慰労会を実施しているが、定期的なミーティングを行い、各々が抱えている課題や就労への想い等を共有する必要性を感じている。単なる就労としてではなく、ネクスファという場に対する想いや、就労に対しての意欲を引き出すことで、主体的に業務にコミットできるものと考える。
■就労する場所=居場所であるために
アンケートでは、ネクスファに関わる動機として「子どもとのかかわり」「生きがい・張り合い」「健康につながる」と答える割合が高かったのに対し、「自分の居場所・コミュニティ」と答える人はほとんどいなかった。就労を通じて、ネクスファが自分にとっての居場所・コミュニティとなることが、結果的に就労への意欲を継続するものと考える。
■引退の時期について
判断が難しいのが、高齢者の引退のタイミングである。そもそも、高齢者就労の場合は定年という概念がない。高齢者側も、何歳まで働き続けるのかが明確でないため、不安になることもあるようである。アンケートでは、「できるだけ長く」という声が最も多くみられた。ネクスファでの就労については、運営管理者が児童を安全に送迎できるか、生徒に授業を遂行する力があるか、等々、見極める必要がある。
私たちは、子どもたちだけでなく、保護者、そして高齢者も含めたスタッフのみなさんが気軽に居られる場所、そして地域の人々が気軽に足を運び、「ただいま」と言える場所をつくりたいと考えています。
子どものお迎えにきたお母さんが、子育ての悩みをお年寄りにちょっと相談する。逆に、そのお母さんが特技の絵を子どもたちに描いてみせる。「○○くんのお母さんってすごい!」という子どもたちの歓声が聞こえてくる。地域のおじいさんがふらりとやってきて、子どもたちにベーゴマの技を伝授する。スタッフ手づくりのおやつを子どもたちと「いただきます」。「あれ、気づいたらこんなに時間がたっちゃったんだ」なんて言いながら帰っていく。
ネクスファが地域の人々にとっての「居場所」として根付くことで、かつて地域に存在していた、人と人との「つながり」を取り戻す。お互いの得意なことや、やりたいことを出し合い、それを認め合う。頼りにされることで、また来たい、と思う。地域の方々が気軽に関わることのできる「オープンな場」であることが、人と人との関係を紡ぎ、地域全体の安全に繋がっていく。そんな「世代を超えた“つながり”」が自然発生するような多世代交流のコミュニティをつくりだしていきます。
「高齢化社会」「放課後の子どもの居場所の不足」は、日本全国で起きつつある課題です。柏だけにとどまらず、日本中の課題を解決するキッカケになれば、と考えています。